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あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

2013年をウイルス目線で振り返る

The kind that make you sick!!!

我らがビンセント・ラカニエロ先生がウイルス学的に2013年を振り返っていらっしゃるので、ざざっと茶々をいれてタイトルだけ読んでみましょうか(TWiVを聞いてないのがばればれですな)。

RNA干渉による抗ウイルス作用

ノーベル賞が2006年ですか・・・哺乳類細胞でのRNA干渉の抗ウイルス作用は、とてもパワフルな自然免疫の作用に隠されてしまい、なかなか研究が進みませんでした。が、ノダムラウイルスのB2たんぱく質のもつ抗RNA干渉作用がウイルス増殖に必須であることが示され、論争に一応の終止符が打たれました。

RNA Interference Functions as an Antiviral Immunity Mechanism in Mammals
Antiviral RNA Interference in Mammalian Cells

しかし、ほぼ同時に、RNA干渉は自然免疫関連たんぱく質の発現を抑え、過剰な宿主応答を抑制している(場合もある)という報告もなされ、ウイルスと宿主の組み合わせによって状況は変わると言った方が良さそうですね。

Cell Host and Microbe - Reciprocal Inhibition between Intracellular Antiviral Signaling and the RNAi Machinery in Mammalian Cells

MERS-CoV

イギリスで突如発生し、その後中東諸国を中心に散発的に存在していることが分かったMERSコロナウイルス感染症。2002年の中国でのSARS-CoVアウトブレイクに比べ、各国機関の迅速な対応・・・と思いきや(ごにょごにょ)。と、とにかく、研究者たちの注目度は高く、あっというまに全ゲノムが解読されるーの、レセプターが同定されるーの、自然宿主が同定*1されるーの、動物モデルが樹立されるーので、追いかけるのも大変な一年でした。

Isolation of a Novel Coronavirus from a Man with Pneumonia in Saudi Arabia*2
Molecular basis of binding between novel human coronavirus MERS-CoV and its receptor CD26
Structure of MERS-CoV spike receptor-binding domain complexed with human receptor DPP4
Identification of MERS-CoV in dromedary camels : The Lancet Infectious Diseases
Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus in Bats, Saudi Arabia - Volume 19, Number 11—November 2013 - Emerging Infectious Disease journal - CDC

胎盤の栄養芽細胞が提供する抗ウイルス作用

あーこれASV 2012で聴いたわー。前から知ってたわー。
流行りのmiRNAの抗ウイルス作用研究の中でも、胎盤の栄養が細胞がexosome中にmiRNAをごそっと投入し、それをphagocytosisした細胞(胎児)が抗ウイルス状態になるというコンセプトがひときわ輝いていましたね。

Human placental trophoblasts confer viral resistance to recipient cells

T7バクテリオファージが歩く

これは動画を見た方が早いかな。えっあの足って月着陸船みたいに固定じゃなかったの!という驚きですね。Cryo-EM/ETの発達で、ウイルスの形や挙動にまつわる新発見がどんどん増えてきているように思います。


T7 Virus Walking Across a Cell - YouTube

The Bacteriophage T7 Virion Undergoes Extensive Structural Remodeling During Infection

cGASの驚くべき役割

細胞外や細胞質に存在する異質なものを認識するパターン認識受容体のうち、細胞質に存在するDNA(普通は核内にしか存在しない)を認識する分子は同定されていませんでしたが、ついに見つかりました。しかも、自然免疫を誘導する他のシグナル経路と異なり、環状GMP-AMPを介したシグナル伝達という新しさも光りましたね。

Cyclic GMP-AMP Is an Endogenous Second Messenger in Innate Immune Signaling by Cytosolic DNA
Cyclic GMP-AMP Synthase Is a Cytosolic DNA Sensor That Activates the Type I Interferon Pathway

ウイルスと宿主のいたちごっこ

増殖サイクルの早さから、ウイルスの進化はとても急激です。しかし、宿主も黙ってはいられません。この研究では宿主の特定のたんぱく質(ウイルスにとってはレセプター)が、ウイルスの感染を避けるように変異していった可能性が示されています。ウイルスの進化モデルはいくつもありますが、宿主も同時に進化していったことを示したのは初めてじゃないでしょうか。この論文のあと、複数の種にまたがってレセプターを比較する研究が流行しましたね。

PLOS Biology: Dual Host-Virus Arms Races Shape an Essential Housekeeping Protein

パンドラウイルス

はいはいアメーバアメーバ。巨大ウイルス巨大ウイルス。蝉コロンさんのとこで解説記事あったんだけどなぁ。

Pandoraviruses: Amoeba Viruses with Genomes Up to 2.5 Mb Reaching That of Parasitic Eukaryotes

CMVをベースにしたSIVワクチン

HIVの治療法や治療薬は徐々に樹立されつつありますが、効果が限定的で、高価で、患者への肉体的負担も大きいことが課題です。そのため、ワクチンベースで患者の免疫応答によってHIV感染をコントロールする方法が研究されています。CMVをベースにしたワクチンもそのうちの一つです。SIV(サルのHIV)を使い、ワクチンによりウイルスを排除できることが示され、今後のエイズ療法の有力でリスクの少ない選択肢として注目が集まりそうです。


NEIDLに行ってきました


Threading the NEIDL - Inside a BSL-4 Lab ...

ボストン大学がどーん!と新設したBSL4(P4)研究所が公開され、TWiVのメンバーが見学した時の動画が公開されてます。BSL4としての稼働はまだ先のことですが(年内?)、この手の施設が新しく建てられるのはいいことですね。長崎はどーなったんでしょ?

それでは

みなさん、良いお年を!(アメリカはまだ2013年)(間に合った!)

*1:遺伝子断片だけで同定とか言うなYO!という声もある

*2:ちなみに、ウイルス分離の論文はH5N1インフルエンザウイルスのデュアルユース問題で世界を騒がせたファウチャー博士のラボから出ました

ウイルスは想像以上に宿主のmiRNAを上手に使いこなしているのかも

今回の論文はこちら。
RNA viruses can hijack vertebrate microRNAs to suppress innate immunity.
Nature (2013) doi:10.1038/nature12869.

東部馬脳炎ウイルスという、たぶんほとんどの人が聞いたこともないウイルスがいます。アルファウイルス属というこれまた聞き慣れないグループに所属してまして、お仲間には西部馬脳炎ウイルス、ベネズエラ馬脳炎ウイルス、チクングニヤウイルスがいます。チクングニヤウイルスだけがアフリカ産で、他の3ウイルスは南北アメリカ大陸で仲良くしてます。馬脳炎ウイルスなので当然馬に脳炎を起こすのですが、人にも感染して脳炎を起こしたりして時々死者が出てます。蚊が媒介するので、性質だけ見れば日本脳炎ウイルスに良く似てますね。

アメリカ産馬脳炎ウイルス三兄弟(姉妹でも可)を比べますと、人に対する病原性は東部馬脳炎ウイルスが一番強く、2番目がベネズエラ馬脳炎ウイルス、末っ子が西部馬脳炎ウイルスです。どれも致死率は1割にも満たないのですが、脳炎を起こすと半分くらいの人が亡くなり、回復しても後遺症に苦しめられます。脳炎を起こす頻度とか、脳炎を起こした後の致死率とかが東部>ベネズエラ>西部の順だとざっくり覚えておけばいいんじゃないでしょうか(そもそも覚える必要があるのかしら)。

兄弟ウイルスということで、研究者が気にするのは「どういう違いがあるんかしらー?」という点でございますね。今まで分かっていることと今回分かったことを東部馬脳炎ウイルスとベネズエラ馬脳炎ウイルスの比較でまとめてみました。それにしてもEEEVってかっこいい省略形(はぁと)。

f:id:DYKDDDDK:20131228170607p:plain

今回分かったこと(図中赤点線枠)は、東部馬脳炎ウイルスは樹状細胞などでだけ発現しているmiRNA*1に認識される配列をウイルスRNAの3末側UTRに4つも持っていて、ウイルスのRNAがぼろぼろになって増えられないということ。もちろん、他の細胞では増えることができます。樹状細胞やマクロファージは侵入者に対する最前線の防衛ラインですから、ここをすり抜けるためにある程度の犠牲を払っているというわけです。

そして、この樹状細胞などをすり抜けてしまう性質がために、東部馬脳炎ウイルスは他の兄弟に比べて脳炎を起こしやすいのではないか?という疑問にマウスモデルを使って答えを出しています。miRNA認識配列を壊したウイルスが、感染初期に自然免疫の応答を引き起こし、マウスの症状がオリジナルの東部馬脳炎ウイルスではなくベネズエラ馬脳炎ウイルスに近くなるという、きれいな結果です。ついでにヘパラン硫酸との結合についても解析していて、今までぼんやりしていた各現象のつながりが極めてクリアになりました。お見事。

さて、今回でてきたmiRNAや、RNA干渉とか自然&獲得免疫などの、ウイルスに対する宿主の応答というのは原則的にウイルスを排除する指向性があります。したがって、ウイルスの戦略というのは、そうした応答を起こさないよう隠れたり、邪魔したりというのが普通です。ところが、東部馬脳炎ウイルスは、自然免疫から隠れるために敢えて宿主のmiRNAを利用して自らを殺していることが分かりました。急性感染症の原因となるウイルスのこんなふるまいは僕の知る限り他に見つかっていません。

肉を切らせて骨を断つかのようなふるまいは、ウイルスらしからぬ複雑な挙動です。果たしてこの現象は、進化の果てに獲得した性質によるものなのか、それとも他の何かに必要な機能*2がたまたまこのような性質を見せているだけなのか、興味はつきませんね。

*1:miRNA-142-3p

*2:miRNA-142-3p認識配列は蚊でのウイルス増殖にも重要みたいなので、そちらの機能の方がもともとの性質なのかもしれません

ナルコレプシーとインフルエンザウイルスをつなげる13のアミノ酸

f:id:DYKDDDDK:20131227115632p:plain

メリークリスマス!みんな、良い子にしてたかな?もちろんプレゼントは年末年始のお仕事だよっ!(吐血)

今回の論文はこちら。Sci Transl Medはここんとこ熱くなってきてる気がしますねー。ウイルスあんまし関係ない気もします。イラストがやっつけすぎる?まぁそうかたいこと言うなよ。
CD4+ T Cell Autoimmunity to Hypocretin/Orexin and Cross-Reactivity to a 2009 H1N1 Influenza A Epitope in Narcolepsy

ナルコレプシーという睡眠障害を示す脳神経疾患があります。複数の疫学的調査によって、この病気(のほとんど)が特定のHLA型(DQ0602*1中央アジア〜ヨーロッパに多い)が関係する自己免疫疾患であり、オレキシン/ハイポクレチン産生神経細胞の消滅が引き金となっていることが分かっていました。しかし、自己免疫疾患の主原因となるB細胞が作る抗体をいくら調べても、ナルコレプシーのメカニズムに明確な答えが出ませんでした。

一方で2009年に北米で始まった新型/豚由来H1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの最中、Pandemrixというワクチンがナルコレプシーを誘発しているのではないかという疑惑が持ち上がりました。インフルエンザワクチンとナルコレプシーの関係については、CDCや厚生労働省も公式声明を出してますし、六号通り先生と青木先生のブログでも過去に取り上げられていますので、目にされた方も多いのではないでしょうか。
CDC - CDC Statement on Discontinued Use of Pandemrix Influenza Vaccine in Europe - Vaccine Safety
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013nne-att/2r98520000013nzv.pdf(PDF)
新型インフルエンザワクチンとナルコレプシーの発症について:六号通り診療所所長のブログ:So-netブログ
Pandemrixとナルコレプシー - 感染症診療の原則

この2つのナルコレプシーにまつわる謎をまとめてドン!と解明したのが今回の論文です。かっこいいですねー。

まず最初はハイポクレチンを部分的に合成して、DQ0602との親和性やDQ0602を持つAPCの抗原提示能を調べ、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞だけがAPC(DQ0602)とハイポクレチンペプチドで分化(IFN-γとTNF-αで見てるからTh1ですね)することを示しています。抗体をいくら調べても結論が出なかったのに、上流までちょっと戻ったらあっさり分かっちゃった。特にハイポクレチンの56〜68番目のアミノ酸配列と87〜99番目の13個のアミノ酸からなる配列がCD4+ T細胞への抗原提示に寄与しているみたい(Figure 3A)で、しかもこれ、ハイポクレチンがシグナルを伝えるのに重要な部位です。直接示されているわけではないですが、ナルコレプシー発症機序の超重要部分が実にさくっと解明されてしまったように見えました。

まとめ1
  • ハイポクレチンの機能部位がHLA-DQ0602に結合してCD4+ T細胞に抗原提示され、CD4+ T細胞はTh1に分化する ←New!
  • CD8+ T細胞が活性化し、ハイポクレチンを発現する細胞を排除? ←まだ分かってない
  • ハイポクレチン発現神経細胞がいなくなると睡眠障害の症状が出る ←知ってた


注目すべきは豊富なナルコレプシー患者由来のサンプルでしょう。普通の患者(と陰性対象)だけでなく、双子のうち1人がナルコレプシーでもう1人が発症していないケース(Figure 2B)や、Pandemrix接種後にナルコレプシー発症した患者とその兄弟(Figure 2C)というサンプルも集めています。この研究に携わっている人たちの本気度が伝わってきますね。

さてさて、お次はインフルエンザワクチン*2に対する反応をvivoとvitroの両方で見ています。インフルエンザワクチンを接種すると、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞はハイポクレチンに対しての反応性がさらに上がってしまうけど、ナルコレプシーでない人のCD4+ T細胞にハイポクレチンに対する反応を誘導することはできないことが示されてます(Figure 4&6)。インフルエンザウイルスH1N1(A/California/7/2009 (H1N1)、パンデミックの時に分離されたウイルス)のHAたんぱく質の275〜287番目のアミノ酸と、先ほど出てきたハイポクレチン56〜68と87〜99はとてもよく似ていることも分かりました(Figure 5)。他のH1インフルエンザウイルスたち(A/New York/490/2003 (H1N2)*3、A/Wisconsin/10/1998 (H1N1)*4、A/Puerto Rico/8/1934 (H1N1)*5、A/Brevig Mission/1/1918 (H1N1)*6)も似たような配列を持っていますが、DQ0602との結合力は豚由来のA/Wisconsin/10/1998とパンデミック株のA/California/7/2009に比べて低く、ナルコレプシーとの関連はあるかもしれないけど、たぶんなさそうです。

まとめ2
  • インフルエンザウイルスのHAたんぱく質は、ハイポクレチン上のナルコレプシーに関わる領域ととても似た配列を持っている ←New!
  • 2009年パンデミックのインフルエンザウイルスと豚インフルエンザウイルスは特にハイポクレチンとの反応を誘導しやすいアミノ酸配列を持っている ←New!
  • パンデミックインフルエンザワクチン単体で、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞のハイポクレチンに対する反応性を上げてしまうが、アジュバントのないワクチンではハイポクレチンに対する反応性を誘導できない ←New!


つまり、パンデミックインフルエンザ(ワクチン)によるナルコレプシーというのは、

  • もともとポテンシャルのある人(HLA-DQ0602を持つ人)
  • アジュバント、あるいは他の要因により、CD4+ T細胞の分化がTh1側に強く誘導された状態でのワクチン接種/ウイルス感染

によって引き起こされる不幸なできごとであることがおぼろげながら見えてきました。また、今まで疫学的相関関係しか分かっていなかった、ナルコレプシーと自己免疫疾患との間にメカニズムを見出せたインパクトはとても大きいのではないかと思います。早期診断だけでなく、予防に治療に、あらゆる応用が期待されますね。

*1:DQA1*01:02/DQB1*06:02

*2:アジュバントなし、パンデミックインフルエンザウイルスを含むものか、パンデミックインフルエンザウイルスワクチン単体

*3:季節性インフルエンザウイルスの一つ

*4:豚インフルエンザウイルスがたまたま人に感染したケースから分離。

*5:いわゆるPR8株。

*6:スペイン風邪のウイルス株。凍結保存されていた患者の肺サンプルからシークエンスされた。

ワクチンに対する免疫応答は見分けられる/犬を飼うと子どもにいいんだってさ

Science DailyはVirologyのフィードだけ購読する派ですが何か。

ほえーっと思った記事が1日に2つもあったので更新しちゃいます。

まずはこちら。
Scientists identify molecular biomarkers of vaccine immunity
元論文。
Molecular signatures of antibody responses derived from a systems biology study of five human vaccines

ワクチンをぶすっと接種された人の身体の中では、ヘルパーT細胞やらB細胞やらが「こりゃやべーもんが侵入してきたぁぁぁあああ」と抗体を作って一生懸命排除しようと努力するんですが、もちろん偽物の侵入者なわけで、本物が侵入してくるときとはまるで勝手が違うわけです。いや勝手が違うとか言われても困りますがな、ちゃんと守ってくださいよ、というのは人間の、それこそ勝手な都合というものです。ワクチンの効果やらを検証するために本物を人間にぶすっと注射するなんてできないので、ワクチンに対する応答というのは昔からじっくり調べられてきた分野であります。

んで、せっかく使える技術やデータも溜まってきたことですし、ここで一発最先端の解析してみましょうかね、というのがこの論文です。2種類の髄膜炎菌ワクチン*1、3種混合不活化インフルエンザウイルスワクチン*2、弱毒インフルエンザウイルス生ワクチン*3、弱毒黄熱ウイルス生ワクチン*4の5つのワクチンに対する応答をごりごりと比べてみましたところ、当たり前っちゃ当たり前ですが共通する応答と、そうでない応答が出てきまして、共通する方はこれからいろんなところで役に立つ指標になるかもねー?みたいな?(ぼんやり)

個々の応答について僕はあまり興味がないのでぼんやりですが、こういった研究から副反応がより少ないワクチンや、より効果のあるワクチンを作る方法、さらには効果がより長持ちするワクチンが生まれてくるかもしれません。こんな研究ができるよーになったんだなーすごいなーと思ったので、紹介しました(ぼんやりのくせに)(がんばれシステム生物学)。
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もう1つはこちら。
How household dogs protect against asthma and infection
元論文。
House dust exposure mediates gut microbiome Lactobacillus enrichment and airway immune defense against allergens and virus infection

犬を飼ってる家庭で育ったこどもは喘息や呼吸器感染症*5に抵抗性があるという、疫学的に言われていたことのメカニズムを解明した論文です。以前にもASMでの発表が話題になったりしているようで、どこかで耳にした方もいるんじゃないでしょうか。この論文では発表当時よりさらに研究を進めたようで、犬由来のハウスダストに触れるとLactobacillus johnsoniiという乳酸菌の一種が腸内フローラで優勢となることが抵抗性に寄与しているところまで示しています。L. johnsonii以外の奴らについては個別に見てないような気がするんですが、どうなんでしょ。人だと、犬飼ってなくてもヨーグルトいっぱい食べる人とかいると思うんですけど、そういう家庭でも喘息少ないのかな?興味はつきませんね。

*1:日本では認可されてないのでおなじみではないですね。

*2:これはグラクソのFluarixか、ノバルティスのFluvirinのようです。

*3:MedImmuneのFluMistです。お鼻にシュッとスプレーするワクチン

*4:イエローカードでおなじみ、YF-17D株です。

*5:ここでRSVを使っているのでVirologyタグが振られている模様

透明マントって何じゃらほいほい

今回の論文はこちらです。
HIV-1 evades innate immune recognition through specific cofactor recruitment : Nature : Nature Publishing Group

話題の記事はこちら。
HIVが体内で身を隠す「透明マント」を発見

今週の俺のソース - 俺のソース
ここの最後のやりとりを参照ください。触発されたので。本当は酵母先生のtwだけでいいような気がするのですが、これは解説しない訳にはいきません(めらめら)(ライバル心の萌える音)(萌えないゴミとは)(え?)(今の脈絡ないよね)(これいつまで続けるの)(閑話休題)。

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参考:Extended Data Figure 1: A model for HIV-1 core behaviour and innate sensing.

ウイルスの遺伝子というのはただのDNAやRNAではあるんですが、実は細胞から見るとすんごく異質な存在なわけでして、ほんの少しだけ存在しててもちょーーー目立つのです。しかも、我々の細胞にはそういった”異質な”ものたちの侵入を見張るセンサーがたくさんあって、見つけ次第サイレンが鳴って周辺の細胞や免疫細胞に知らせたり、侵入者ごと自殺しようとする仕組みが備わっています。細胞すごい。

だがしかし、駄菓子菓子、我らがウイルスも負けてはいません。DNAやRNAを何でもないようなタンパク質でぐるっと囲んで隠したり、センサーの電源を引っこ抜いてみたり、サイレンをぶちこわしに行ったり、いろんな工夫で監視の目をくぐりぬけようとしています。ウイルスもすごい。

HIVのRNAはカプシドと呼ばれるタンパク質にくるまれていて安心なのですが、増殖するにはRNAをカプシドから出して、逆転写反応でDNAにして、核内に運んで、ぐいっと細胞のDNAの中に入れる必要があります。このどのステップで失敗してもウイルスは増えることができずアウトとなります。何でこんなめんどくさいことしてるんですかね。どMか。

さてさて、HIVのカプシドは元々、メッセンジャーRNAを作るのに関わってる『CPSF6』とタンパク質の形を整える役割を持つ『シクロフィリン』という2つのタンパク質とくっつくことが分かっていました*1が、どーしてこいつらをカプシドがくっつけておく必要があるのかがいまいちでした。なので、研究者たちはCPSF6やシクロフィリンがくっつかないような改造カプシドを持つウイルスを作って、日夜研究していたのでした。

ある日、免疫系の細胞でこの改造ウイルスが良く増えられないことに気づいた研究者が、仮説を立てます。免疫系の細胞は特に異物センサーが活発なので、CPSF6やシクロフィリンはウイルスRNAやDNAをセンサーから隠すのに必要なんではなかろーか。ということで実験してみたら、改造ウイルスはやっぱりセンサーに引っかかってることが分かりました。しかもウイルスのDNAがセンサーに引っかかってるみたい。これは面白いぞーということで論文になったのでした*2

シンプルですてきな研究を分かりにくくしてしまった『透明マント』という表現ですが、プレスリリースですと『invisibility cloak』という表現になってますね。『invisibility』は確かに『透明』と訳しても誤訳ではないのですが、この場合は『見えない』とか『気づかれない』といった表現の方が適切だと思います。つーか、日本語にはもっと適した『隠れ蓑』って言葉あるじゃんね。AFP通信の日本語訳はいつもハラハラするなぁ。しっかりしてよね!

f:id:DYKDDDDK:20131117091102j:plainところでサウロンの目がなかなかうまく書けたような気がするので僕は満足です(気のせい)(木の精とは)(またやるのか)(いいかげんにしろ)(ありがとうございました)。

*1:記事だとこのタンパク質たちが新しく特定されたようなニュアンスになってますけど、カプシドとこいつらの結合は以前に報告があります。

*2:実はごにょごにょポイントがあって、カプシドとCPSF6/シクロフィリンとの結合が本当に『透明マント』的な働きをしてるのか?という疑問は拭えません。CPSF6/シクロフィリンとの結合は適切なDNA integrationにも大事で、侵入機構がhost factor recruitmentに依存しているのは確かですが、ただ単に侵入機構の破綻が招いた結果なのじゃないか?とも言えなくもないのです。これを切り分けるのは困難なので、あまり意味のない実験になってしまうのは確かですが。

とあるコウモリの恋愛遍歴

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コウモリの便からウイルス 中東呼吸器症候群、サウジ——MSN産経ニュース
ラクダにMERS抗体=ウイルス宿主か-英医学誌——時事ドットコム
MERS コウモリからも感染か——NHK NEWSweb
MERSウイルス感染にコウモリが関与か、DNAが完全一致——AFPBB*1
MERS、コウモリが原因?=感染者のウイルスと一致-米医学誌——時事ドットコム*2

またしてもコウモリさんとウイルスの熱愛の歴史に新たな一ページが加わりましたので、過去の熱愛発覚スクープをざざっと振り返ってみたいと思います。

ご注意(2013年9月1日追記)

はてぶコメントでご指摘いただいたように、この記事では亜目以下の分類、生活様式などを問わずコウモリという通称で統一しており、コウモリの種名はほとんど提示しておりません。個々のウイルスの進化や人社会との接点については、個々のコウモリに依存した性質であることをご留意ください。

また、特定の種のコウモリからウイルスが新規に発見されたからと言って、個人の感染リスクが上がることはありません(むしろ、自然宿主の発見によって様々な対策が可能となり、感染リスクは下がります)。コウモリだからと言ってむやみに恐れる必要はありませんが、野生動物との安易な接触が危険であることに変わりはありません。この記事は、ウイルス発見の歴史を簡単に振り返ることが目的であり、恐怖や忌避感を煽る意図は一切ないことを明記しておきます。

1950年頃

コウモリさんと狂犬病ウイルスの仲睦まじい関係がスクープされたことからすべては始まりました。2人のあまりの熱愛っぷりに誰もが発狂したと言います(これがウイルスジョークです。きわめてブラック)。狂犬病ウイルスはコウモリさんにはほとんど病気を起こさないことからも、いかにお互いに愛し合っているかが分かりますね。コウモリさんの棲む洞窟に入った動物が狂犬病ウイルスに感染し、他の動物に噛み付いては感染を広げるというゾンビ映画顔負けのストーリーも話題になりました。

2000年

Isolation of Hendra virus from pteropid bats: a natural reservoir of Hendra virus
さてさて、時代は流れ流れて2000年。しばらく浮いた噂のなかったコウモリさん*3に、出血熱ウイルスとの熱愛疑惑が浮上します。お相手はヘンドラウイルス。馬と人に感染して出血熱を起こす、オーストラリアの凶悪なイケメンです。人目につかない場所でちゅっちゅちゅっちゅしてたコウモリさんとヘンドラウイルスでしたが、凶悪でイケメンだけどうっかりさんなヘンドラウイルスが馬に感染しちゃったがために、ふたりの愛が白日の下に晒されることになりました。
Photo:Grey-headed Flying-fox By:0ystercatcher
Photo:Grey-headed Flying-fox By 0ystercatcher
画像はハイガシラオオコウモリさん。(`・ω・´)キリッ と飛ぶ顔がかっこいいですね。

2001年

Nipah Virus Infection in Bats (Order Chiroptera) in Peninsular Malaysia
ヘンドラウイルスとの熱愛発覚の翌年、今度は東南アジアで、ヘンドラウイルスの兄弟のニパウイルスとコウモリさんの関係がスクープされました。ニパウイルスさんはやっぱりイケメン*4で、馬よりも豚が好きな肉食系です。ヤシの実を介した斬新な伝播経路も話題になりましたね。

2005年

Fruit bats as reservoirs of Ebola virus
この年にはアフリカにて、出血熱ウイルス界のエースことエボラウイルスとコウモリさんとの熱愛疑惑が浮上。ただし、研究者たちの執拗なパパラッチ攻撃にもかかわらずエボラウイルスは全然馬脚を現しません。ウイルスRNAの断片や抗体は検出できるのですが、いっこうにウイルスそのものが見つからないのです。さすがはエース、雲隠れも上手ときましたかと、あきらめムードの漂う中、新たなる熱愛相手が浮上します。

Severe acute respiratory syndrome coronavirus-like virus in Chinese horseshoe bats
それは同じく2005年、舞台はアジア。今度は中国です。感染者が旅行していたことが発覚するなど、世界の衛生関係者を混乱の渦に巻き込んだSARSコロナウイルスが、ハクビシンさんとの熱愛報道の陰でコウモリさんと愛を育んでいることが発覚。このあたりになってくると、またコウモリか的な雰囲気も漂いつつあったとかなかったとか。SARSコロナウイルスは2004年に終息宣言が出されて以降、再発が確認されていないので、コウモリさんとのラブにうつつを抜かしていたというわけですね。そのままうつつを抜かしていてほしいものです。

2007年

Marburg Virus Infection Detected in a Common African Bat
Isolation of Genetically Diverse Marburg Viruses from Egyptian Fruit Bats
さらにビッグニュースがやってきます。アフリカにて、エボラウイルスの親戚、マールブルグウイルスがコウモリさんとラブラブしているところをおさえられ、スクープに。親戚同士でなにやってんだとか、マールブルグウイルスが見つかったなら同じ方法でエボラウイルスも見つけられるだろとか、いろいろ言われましたが、やっぱりエボラウイルスは全然姿を見せません。親戚とは言え、やはり格が違うのか、エボラ。


2012年

A distinct lineage of influenza A virus from bats
次のお相手は、コウモリさんの熱愛遍歴史上最大のビッグネーム、インフルエンザウイルスです。みなさんおなじみのインフルエンザウイルスですが、コウモリさんと熱愛していたのは、今まで見たことのないまったく新しいインフルエンザウイルスでした。コウモリさんといちゃいちゃしていたウイルスと、僕らの知っているインフルエンザウイルスの関係とは!?果たして、ただの遠い親戚なのか?すべてのインフルエンザウイルスの祖先なのか!?と、議論は最高潮でございます。

2013年

Bats are a major natural reservoir for hepaciviruses and pegiviruses
年を越して2013年。インフルエンザウイルス報道の熱も覚めやらぬまま、次にスクープされたのは持続感染のメジャーリーガー、C型肝炎ウイルスでした。人間のC型肝炎ウイルスに一番近い親戚は馬と犬から見つかっているウイルス(リンク先はid:semi_colonさんの紹介記事)ですが、この2つの本家筋に当たる親戚がコウモリさんとLOVEマシーンだということが分かりました。いやおまえ節操なさすぎだろ!というツッコミにもそろそろ疲労の色が見えますが、次で(とりあえず)最後です。

Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus in Bats, Saudi Arabia
最新のスクープは冒頭で紹介したように中東から。中東を中心に、なぜかヨーロッパにばかり飛び火しているMERSコロナウイルスといちゃいちゃしていた痕跡が、コウモリさんから見つかりました(まぁなんて卑猥なたとえ!)。もうここまで来ると「新しいウイルス感染症?どこから来たか分からない?とりあえずコウモリじゃね?」というレベルです。MERSコロナウイルスも当初はラクダとの熱愛が疑われていましたが、やっぱり親戚のSARSコロナウイルスおじさん同様、コウモリさんにお熱だったようであります。ラクダが否定されたのではないですけどね。


以上、現場からお伝えしました。
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写真はストローオオコウモリさん。案外コウモリの写真を種鑑別してクリエイティブコモンズにしてる人は少ないのですね。ウマヅラコウモリとかなかなか凶悪な顔で好きなんですけど。ちなみに、一番のお気に入りは『密林の毛玉』ことシロヘラコウモリさんです。


エマージングウイルス関連でやたらめったらフィーチャーされるコウモリさんですが、当然っちゃ当然の話で、要はこいつら種類が多いんですよね。ほ乳類の4分の1はコウモリです(2分の1がネズミ)。んで、これも当然ですけど、生息地も広い。人間社会との接点も多い。まだまだコウモリフィーバーは続くんじゃないかなと思います。

問「コウモリの公衆衛生上の重要性について、複数のウイルスを例に挙げて議論せよ」

という問題が感染症関連講義の定番*5になる日も近いんでないかなと思います。


注意)ここに書かれているコウモリさんの恋愛遍歴は、明らかになったものの一部です。だって全部おっかけたら日が暮れちゃうんだもん。

*1:『ウイルスのDNA』て。コロナウイルスはDNA持ってまへんよ。geneticの誤訳ですね

*2:個人的に一番つぼったのがこの記事。『医学誌「新興感染症」』という訳が素敵

*3:本当はそんなことないけど、全部網羅して調べる自信がないから諦めました

*4:あまりにイケメンすぎるので、後にコンテイジョンで映画デビューしました

*5:ちなみに、今もっとも定番な問題は「天然痘が撲滅された理由を、他の病原体と比較しつつ述べよ」でしょうね

ウイルスを中和しないワクチンを作ってみたら案外うまくいった件

ウイルスに対するワクチンというのは、主に中和抗体を誘導する目的で作られています*1。中和抗体というのは、B細胞が作る抗体のうち、ウイルスの外側にべたべたっとくっついてウイルスを檻の中に閉じ込めてしまうような抗体のことです。たいていは抗体を作る体の方が勝って、ウイルスは全部檻の中に閉じ込められてしまいます。めでたしめでたし。
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というわけで、ワクチンは主にウイルス粒子の外側に出ているタンパク質でできています。あるいは、ウイルス粒子そのものとか。ウイルス粒子の外側のタンパク質じゃないと抗体の檻ができませんからね。これはこれで、人類が長年かけてたどり着いた一つの答えですので、たいていはうまくいくわけです。そう、たいていは。

ここにサイトメガロウイルスというかっこいい名前のヘルペスウイルスがいます。得意技はヘルペスらしく、ザ・日和見感染。ざっくり言って、およそ半分くらいの人はこのウイルスと共に生きています。普段は隠れているので分かりませんが、免疫系が弱ってよわよわ状態になると悪さをします。免疫系よわよわ状態の原因はいろいろありますが、HIV感染や臓器移植のときに特に問題になるみたいですね。臓器移植のときは免疫系がんばれ状態にはできないので、感染者から非感染者に移植する場合は抗ウイルス薬をばんばん投与してウイルスを抑えなきゃいけません。もう一つ問題となるケースは、妊婦さんが感染したり、妊婦さんが免疫系よわよわになってウイルスが悪さしたときです。風疹のように、胎児の奇形の原因になったりします。

さーて、こういう問題を根っこから解決するために、サイトメガロウイルスのワクチン作りましょうか、で、作りました。ところが、結果がびみょーであります*2。中和抗体はできるんですけど、ウイルスが殖えちゃうのは止められないことがあります。できればもっと効いてほしいんだけど。というのが今までの流れです。中和抗体ができるのでワクチンとしてはうまくいっているのですが、サイトメガロウイルスの性質を考えると、もうちょっと何とかして重篤な病気になるのを確実に防げるようにしたい。そこで、研究者たちは考えました。ウイルスを檻に閉じ込める戦略だけに頼っているのが良くないんじゃね?

今日は前置きが長かったですね。というわけで論文はこちら。安定安心のJV。
Vaccination Against a Virally-Encoded Cytokine Significantly Restricts Viral Challenge.
Published ahead of print 14 August 2013, doi:10.1128/JVI.01925-13

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研究者たちが注目したのが、IL-10(インターロイキン10)というサイトカイン*3にそっくりな、cmvIL-10というタンパク質です。何という安易なネーミング!(つい本音が)IL-10は免疫系ががんばり過ぎるのを抑えるのが役目で、サイトメガロウイルスはこいつそっくりなcmvIL-10を作って*4わざと免疫系よわよわ状態を作り出し、自分に都合のいい環境を得ているというわけです*5。んで、そっくりとは言いましてもちょびっと違う部分があるので、cmvIL-10にだけ反応するような抗体を誘導するワクチンを作りまして、試してみましたよっという論文です。
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結論から言いますと、このcmvIL-10に対する抗体作らせる作戦は(サルモデルでは)けっこううまくいきました。完全とは言いがたいものの、ウイルスがバリバリ殖えるのは局所でも全身でも抑えられている感じ。いい感じです。このワクチン単体でもなかなかですから、今までのワクチンと組み合わせたり、抗ウイルス薬と組み合わせたらすんばらすぃワクチンができる予感です。おみごと!

*1:他のワクチン戦略として、細胞傷害性T細胞を元気にさせる方向性もあります

*2:効かないわけじゃないので、最近フェーズ3試験が始まりました

*3:われわれがもともと持っているタンパク質です

*4:正確には細胞に作らせて

*5:がんばり杉を抑える物質なので、普通の状態でそんなん来たらよわよわになってしまう