あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

土用の丑の日(ほぼ)に報告されたウナギに感染するウイルス

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海外*1に住んでいますと、土用の丑の日とか嫌がらせにしか見えない訳ですよ。何なんすかみんなしてちょーおいしそうな蒲焼きとかひつまぶしの画像貼りおってからに。ふっくらほっこり湯気の立つ、さくっと焦げたタレが黒光りする蒲焼き!とろりと垂れたタレが絡んで、キラリとダークに輝く白米!山椒!わさび!肝吸い!Holy eel!

そんなこんなで激おこぺこぺこ丸な土用の丑の日が7月22日、がんばってウナギのこと忘れました。したっけ24日、わずか2日後にヨーロッパウナギに感染する新規ピコルナウイルスを報告する論文が出ました。雑誌はウイルス学界隈での絶対正義、Journal of Virologyです。逆らえません。せっかくウナギのこと忘れてたのに思い出しちゃって悔しいので、ブログ書いちゃおっと、という結論に至りました。

Characterization of a novel picornavirus isolate from a 5 diseased European eel (Anguilla anguilla)
Published ahead of print 24 July 2013, doi:10.1128/JVI.01094-13

新しいピコルナウイルスの名前はEel Picornavirus 1 (EPV-1) です。ピコルナさんのお仲間で魚からとれたのは初めてじゃないかな。電子顕微鏡で見て、ピコルナっぽい奴がいるねーみたいな話はあったようですが、塩基配列まで決められたのは初めてのようです*2。しかも、進化系統的にかなり古い時代に人や動物のピコルナウイルスと分岐している感じでして、これから海のものや川のものから山*3のようにピコルナファミリーが見つかる予感がします。わくわくしますね。

EPV-1が見つかったのはドイツ・スイス・オーストリアの国境にあるボーデン湖 - Wikipedia。琵琶湖よりちょっと小さいくらい。2005年頃に養殖場や野生のウナギがちょくちょく死んでるのが見つかって、何でかなーと調べたらピコルナウイルスでした。ウナギの腎臓から樹立した培養細胞を使ってウイルス分離もできました。ウナギヘルペスウイルスも見つかったようですが、こいつらが悪さしてたかどうかは良く分かりません。ウナギのウイルスと言えばビルナウイルスが日本では特に問題のようですが、検査したとは書いてなかったですね*4。ヨーロッパにもいるはずなんだけどな。

さて、ウイルスが分離できたのでシラスウナギに感染させてみたところ、4割くらい死んでしまってこいつは悪い奴だ!と分かりました。分かったところでウイルス感染症にすぐ何かできるわけではないので、これから気をつけましょうねーくらいしか言えないのが残念なところですが、こうやって一歩一歩、人類はウナギの完全養殖に向けて障害を排除していくのです。新玉亭行きたいなぁ。

*1:日本のものに恵まれた一部地域を除く

*2:余談ですが、ウイルスの初期診断には割と電子顕微鏡が活躍します。達人になると属レベルまで見分けられるとか

*3:海や川なのに山とはこれいかに!というシャレです

*4:初めて魚病学の講義資料が役立った