あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

透明マントって何じゃらほいほい

今回の論文はこちらです。
HIV-1 evades innate immune recognition through specific cofactor recruitment : Nature : Nature Publishing Group

話題の記事はこちら。
HIVが体内で身を隠す「透明マント」を発見

今週の俺のソース - 俺のソース
ここの最後のやりとりを参照ください。触発されたので。本当は酵母先生のtwだけでいいような気がするのですが、これは解説しない訳にはいきません(めらめら)(ライバル心の萌える音)(萌えないゴミとは)(え?)(今の脈絡ないよね)(これいつまで続けるの)(閑話休題)。

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参考:Extended Data Figure 1: A model for HIV-1 core behaviour and innate sensing.

ウイルスの遺伝子というのはただのDNAやRNAではあるんですが、実は細胞から見るとすんごく異質な存在なわけでして、ほんの少しだけ存在しててもちょーーー目立つのです。しかも、我々の細胞にはそういった”異質な”ものたちの侵入を見張るセンサーがたくさんあって、見つけ次第サイレンが鳴って周辺の細胞や免疫細胞に知らせたり、侵入者ごと自殺しようとする仕組みが備わっています。細胞すごい。

だがしかし、駄菓子菓子、我らがウイルスも負けてはいません。DNAやRNAを何でもないようなタンパク質でぐるっと囲んで隠したり、センサーの電源を引っこ抜いてみたり、サイレンをぶちこわしに行ったり、いろんな工夫で監視の目をくぐりぬけようとしています。ウイルスもすごい。

HIVのRNAはカプシドと呼ばれるタンパク質にくるまれていて安心なのですが、増殖するにはRNAをカプシドから出して、逆転写反応でDNAにして、核内に運んで、ぐいっと細胞のDNAの中に入れる必要があります。このどのステップで失敗してもウイルスは増えることができずアウトとなります。何でこんなめんどくさいことしてるんですかね。どMか。

さてさて、HIVのカプシドは元々、メッセンジャーRNAを作るのに関わってる『CPSF6』とタンパク質の形を整える役割を持つ『シクロフィリン』という2つのタンパク質とくっつくことが分かっていました*1が、どーしてこいつらをカプシドがくっつけておく必要があるのかがいまいちでした。なので、研究者たちはCPSF6やシクロフィリンがくっつかないような改造カプシドを持つウイルスを作って、日夜研究していたのでした。

ある日、免疫系の細胞でこの改造ウイルスが良く増えられないことに気づいた研究者が、仮説を立てます。免疫系の細胞は特に異物センサーが活発なので、CPSF6やシクロフィリンはウイルスRNAやDNAをセンサーから隠すのに必要なんではなかろーか。ということで実験してみたら、改造ウイルスはやっぱりセンサーに引っかかってることが分かりました。しかもウイルスのDNAがセンサーに引っかかってるみたい。これは面白いぞーということで論文になったのでした*2

シンプルですてきな研究を分かりにくくしてしまった『透明マント』という表現ですが、プレスリリースですと『invisibility cloak』という表現になってますね。『invisibility』は確かに『透明』と訳しても誤訳ではないのですが、この場合は『見えない』とか『気づかれない』といった表現の方が適切だと思います。つーか、日本語にはもっと適した『隠れ蓑』って言葉あるじゃんね。AFP通信の日本語訳はいつもハラハラするなぁ。しっかりしてよね!

f:id:DYKDDDDK:20131117091102j:plainところでサウロンの目がなかなかうまく書けたような気がするので僕は満足です(気のせい)(木の精とは)(またやるのか)(いいかげんにしろ)(ありがとうございました)。

*1:記事だとこのタンパク質たちが新しく特定されたようなニュアンスになってますけど、カプシドとこいつらの結合は以前に報告があります。

*2:実はごにょごにょポイントがあって、カプシドとCPSF6/シクロフィリンとの結合が本当に『透明マント』的な働きをしてるのか?という疑問は拭えません。CPSF6/シクロフィリンとの結合は適切なDNA integrationにも大事で、侵入機構がhost factor recruitmentに依存しているのは確かですが、ただ単に侵入機構の破綻が招いた結果なのじゃないか?とも言えなくもないのです。これを切り分けるのは困難なので、あまり意味のない実験になってしまうのは確かですが。