あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

エボラ出血熱を正しく怖がるために——(1)へのコメントにお返事するなど

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photo by EU Humanitarian Aid and Civil Protection

前回のエボラの記事では、場末の論文紹介(しかも、ウイルス限定というマニアック感半端ない)ブログにたくさんの反響を頂き、動揺を隠しきれないというか肘に違和感を覚えて降板しそうな勢いです。でも、書きたいことがあって、読んでくれる人がいるのは幸せなことですね。

反響が大きかった分、大事なポイントを指摘された方もたくさんいました。idコールなどはしませんが、ブクマコメントやTwitterでのコメントなどへのお返事です。論文紹介はお休み。イラストもお休み。

なぜ医療従事者が感染するのか?実は空気感染してるのでは?

これはとても大事なポイントですね。結論から言うと、現地ではエボラウイルスの感染を防ぐのに適切な水準を保つのがとても難しいから、というのが最大の理由で、空気感染は今のところ問題になっていないです。NPRで同じテーマが取り上げられていましたので参考までに。

This Suit Keeps Ebola Out — So How Can A Health Worker Catch It? : Goats and Soda : NPR

エボラウイルスの研究を行うBSL4施設では「病原体を持ち出さない」「研究者の命を守る」ために、万全の体制でとことんまで消毒を行います*1。この、過剰に消毒してリスクを減らすことを「オーバーキル」とも呼びます。また、ヒューマンエラーによる万が一を防ぐために、あらゆる作業は標準化され、全員がトレーニング受けて遵守することが求められます。標準化されているため、体調や精神状態によっては交代してもらうことも可能です。事故を防ぐために高額な機器や消耗品を使うことも許されます。ゴム手袋が破れても、加圧スーツがウイルスの侵入を防いでくれます。

一方でアウトブレイクの臨床現場ではどうでしょうか?物資や設備が限られているため、また人間が相手のため、「オーバーキル」とはとても言えない状況です。作業はある程度標準化できますが、手順の見直しやトレーニングに十分時間をかけることはできません*2。体調が悪くなってしまったら、自分がエボラに感染したかと疑わなくてはいけない状況です。特に、エボラ出血熱で血管がぼろぼろになってしまった患者から採血したり、点滴のルート確保をしたりするのは難しいですし、意識がもうろうとして暴れる人もいます。それを、防護衣を着て、ゴーグル越しに見ながら、2重3重のゴム手袋をはめて行わなくてはなりません。ゴム手袋が破れたら、身を守ってくれるものはありません。

確かに、感染症に精通した医師や看護師が感染してしまうというのは、にわかに信じられませんが、こうして比較してみると、いかに現場が危険であるか分かると思います。最前線で戦う医療従事者に感染者が出ているのは、それだけ患者と直接接触し、ウイルスに暴露される機会が多いからということなのです。もし、空気感染で拡がっているとすれば、医療従事者以外のサポートスタッフにも感染が拡がっていてもおかしくないですから、もっとひどい状況になっているのではないでしょうか。

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空気感染と飛沫感染

やらかしちゃった感があふれてますけど、前回の記事ではこの2つをあまり区別していません*3。実験的に空気感染(=飛沫核感染)なのか飛沫感染なのかを区別するのは結構大変なんですよね。人工的に作った飛沫核はあくまでもモデルですし、飛沫感染が成立する状況では飛沫核感染も成立するわけで、いずれにせよ、空気中を漂ったり飛んだりしているエボラウイルスを吸い込んで感染という経路は、エボラの拡散にあまり寄与していないよってことが伝わればいいかなっと(ごまかした)(お茶を濁した)(胡麻菓子おいしいよね)。

満員電車問題

「この社畜め!」と罵りたいのはやまやまですが、ちょっとだけまじめに考えてみましょうか。シエラレオネ、ギニア、リベリアの3カ国がアウトブレイクの中心で、それぞれ国際空港があります。しかし、成田、関空はもちろん、香港、仁川、シンガポール、ドバイといったおなじみのハブ空港には直行便がないようですね。ロンドン、パリ、アムステルダムブリュッセルあたりが気になるところでしょうか。例えばシエラレオネ国内の移動で1-2日、ロンドンに着くまでさらに半日、成田まで直行便で半日ちょい、経由便で1日、が最短ルートかな。丸2-5日くらいかかりそうですね。エボラの潜伏期間は2日から3週間程度のため、どこかで感染した人が気づかずに日本まで来てしまう可能性はなきにしもあらず。到着する頃には風邪様の軽い症状が出始めているでしょうから、検疫で申告するか、感染症外来を受診しましょう。

サウジアラビアの死亡者はシエラレオネからの輸入例(まだ確定していない)だとすると、同様のケースはどこで起きてもおかしくない、ということになります。日本と上にあげた3カ国のビジネスってどんな感じか知りませんが、直接入ってくるケースはかなり限定されますし、検疫でも把握/追跡しやすいのでここは楽観視してもいいかも。それよりもヨーロッパのハブ空港を経由して拡がってしまった場合が要注意ですかね。

これだけ注目が集まり、不安が高まっているので、日本に感染者が入ってくることはたぶんないでしょう。もし入ってきたら?感染者が満員電車に乗っていたら?最初のケースに巻き込まれないことを祈る他ありません。最初のケースがニュースになったら満員電車は日本から消えるでしょうから、その時は保健所などの指示に従いましょうね。

*1:廃棄物や排水は全部オートクレーブで滅菌しますが、人間は滅菌すると死んじゃうので、消毒です。

*2:これができるのは体力のある一部のNGO(=MSF)と公的機関から派遣されているグループくらい

*3:インフルが空気感染とか書いちゃってるし・・・修正しました