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あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

エボラウイルス病(エボラ出血熱)を正しく怖がるために(3)——発症してない人からは感染しないって本当?

ついに日本でも疑い例がとか、BSL4施設稼働するかもとか、対岸の火事がどんどん近づいているように感じられますね。当ブログはゆるゆるウイルス的論文紹介ブログ*1ではありますが、こういう時に情報発信してこそだろー!ということで、今回も引き続きエボラってみましょう。

今回は、エボラの基礎知識として良く言われる(そして、不安になっている人が多いだろうと思われる)『潜伏期間はウイルスを排出しない』という言説について、論文を紹介してみようと思います。

その前に一つだけ。エボラの出血は他の出血熱ウイルスに比べても、実はそんなに激しくありません。粘膜からの出血や皮下出血がほとんどで、いきなり鼻血どばーっ!吐血げぼーっ!とか、目から血涙だらーっ!みたいなことは起きませんので、そういうのはフィクションの中でお楽しみください。

まずはこちらの論文。筆頭著者は日本人。
Host response dynamics following lethal infection of rhesus macaque... - PubMed - NCBI


サルにエボラを実験感染させて、いろーんなパラメーターをこれでもかって具合に解析した論文です。サルでのエボラ熱症状は、発熱と粘膜からの出血、皮下出血で、これらが始まるのが感染2-3日後、ウイルスが血中に検出できるのもほぼ同じタイミングです。そこだけ確認したい人はFig. 1Aと1E(Viremia)だけ見たらいいんじゃないでしょうか。サイトカインや凝固因子などの知識がある人は他の図も見ると面白いと思います。ウイルスが増殖するタイミングで上がったり下がったり、末期にはいわゆるサイトカインストームも起きてます。

次の論文はこちら。ZMAbでサルを治療した論文ですが、今回見るのは治療に失敗した2頭(B2とB3)とコントロールの1頭(C1)の数字です。
Successful Treatment of Ebola Virus–Infected Cynomolgus Macaques with Monoclonal Antibodies

Table 1を見てみましょう。これは、経時的に口腔、鼻腔、直腸それぞれのぬぐい液をRT-PCRにかけてウイルス排出の有無を見た実験結果です。NDは調べてない、『ー』は検出限界以下、検出限界は1 PFU/mL。これは、『ー』であればウイルスはいないと言ってもいいくらいの数字です。Fig. 2と見比べながら読むと、エボラ熱の症状が進行し安楽殺せざるを得なかったB2、B3、C1の3頭とも、安楽殺直前(=外見からして調子がすごく悪そうな状態)にならないとぬぐい液からウイルスが検出できないことが分かります。

ちなみに、治療できたサルのぬぐい液からはウイルスがまったく検出できてません。すてきですね。

最後の論文はこちら。おまけ的に回復期のお話。
Assessment of the risk of Ebola virus transmission from bodily flui... - PubMed - NCBI

治癒した後、どの体液にどれくらいの期間ウイルスが排出されるか、を調べた論文。母乳や精液により長期間排出される、という話はこの論文が出典でしょうか。体液の種類にも依りますが、およそ1週間程度、長くて1ヶ月以上ウイルスが排出されるということで、治癒した患者が解放されるまでにはそれくらいの時間を見積もらないといけないのです。

まとめると、普通の人が触れる危険のある『体液』であるところの唾液や排泄物からは、症状が出るまでウイルスは検出できません。症状が出始めると、血中には大量のウイルスが放出されているので、血が混じった体液には特に気をつけましょう、というところでしょうか。回復した患者さんはしばらくウイルス製造機になっちゃうので、申し訳ないですが、しっかり検査で確定するまでは隔離です。

だから安心だ、というつもりは毛頭ありません。伝えたいのは、こういった実験的な知見に加え、過去のアウトブレイク現場での経験の蓄積から、『潜伏期の患者との(通常の範囲での)接触は問題ない』という話になり、『現地から帰ってきた医療関係者の隔離はせず、1日2回の検温を21日』という話にも繋がっていく、ということです。満員電車の話にはちょっと食傷気味なんで、そこんとこよろしくぅ!

*1:ゆるい表現が気に入らなかったらごめんね☆

エボラ出血熱(エボラウイルス病)を正しく怖がるために——(2)最新の論文を紹介するよ

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本当は治療薬特集とかまとめとかしようと思って、自分の論文*1書いてる合間にこそこそ論文読んでたんですけど、あちこちでまとめとか解説とかあるんでどーしよっかなーからの、すっごく迫力のある論文が出たのでそちらを紹介することにします。Scienceから。著者のうち5人がエボラで亡くなっているということで追悼記事も出ています。

論文本体はこちら。
Genomic surveillance elucidates Ebola virus origin and transmission during the 2014 outbreak
タイトルを翻訳すると『サーベイランスによって明らかになった、2014年にアウトブレイクを起こしたエボラウイルスの起源と伝播』

2014年3月にシエラレオネ政府病院、ハーバード大学、ブロード研究所がケネマという都市で立ち上げたエボラのサーベイランスが、いきなり5月に本物のエボラ患者を見つけてしまったところから論文は始まります。その後のシエラレオネの混乱はご存知の通りですが、著者達は、5人の犠牲者を出しながらも各地でサンプル(患者血清)を収集し、シエラレオネのラボでRNAを抽出、アメリカに送って解析を行います。

集めたサンプルは患者78人から全部で99。同じ患者から採血したものも含みます。これを全部シークエンスして、それぞれのサンプル中にいるエボラウイルスの(ほぼ)全長RNA配列を決定しました。エボラウイルスはマイナス鎖RNAを遺伝子に持っていて、だいたい1万9千塩基くらいの長さなので、最新のシークエンサーにかかればお茶の子さいさいです。最初の15サンプルを使って条件を決めて、残りの84サンプルは一気に解析しました。使ったのはIllumina社のHiSeq2500。1億円以上する最新マシンです。

配列解析後の遺伝子系統解析もスマートで、少し前の論文でごたごたしていた中央アフリカエボラウイルスとの関係もすっきり解決。今回出現したウイルスは中央アフリカから来たものが、ギニアを通してシエラレオネにやってきた一連のものであるということが分かりました。Fig 2と3の系統樹を見ると、ギニアで採れたウイルスからシエラレオネのウイルスが分かれていっているのが良く分かりますね。

さらに細かく見てみると、シエラレオネのウイルスには初期の段階から2種類のウイルスが存在していることが分かります。これは2種類のウイルスが、同時にギニアから(感染拡大のきっかけとなったと言われているエボラ患者の葬式を介して)シエラレオネに侵入してきて、人々の間で広がったと考えると辻褄が合います。また、シエラレオネ内での伝播が一様に東から西へと起きていることも分かりました。10218番目の遺伝子変異を持つウイルスはシエラレオネ内で出現し、変異は時間を経て、西へ移動するに従って安定していることから、ウイルスの伝播を示す最適な指標となっています。

ウイルスの変異スピードを見てみると、今回のエボラウイルスはとても速く遺伝子変異を起こしています。この事実から何か結論を導くためにはさらなる実験が必要ですが、アウトブレイクが収束しなければ、(結果として何が起きるかは分からないものの)より人間に適応したエボラウイルスが出現する可能性があると、筆者達は述べています。

さて、まず気になるのは今回見つかった遺伝子変異によって、実戦投入されているZMappの効きに変化があるのかないのか、ということですよね?では次のNatureから出たばかりの論文をどうぞ。

Reversion of advanced Ebola virus disease in nonhuman primates with ZMapp
タイトルは『ZMappによる、エボラウイルス病が進行した霊長類の回復』

Figure 3に今までサルモデルで使われていたエボラウイルスKikwit株と今回のアウトブレイクで採れたGuinea株の比較があります。赤矢印で示されているZMappのエピトープはGuinea株でも変異していないですね。近傍に2つアミノ酸変異がありますが、ZMappの結合や中和活性には影響していない、と。

それでは先ほどのScience論文に戻り、シエラレオネの株を見てみましょうか。サプリのTable S4です。ZMappエピトープ近傍には、Guinea株でも見られた503番目のアラニンからバリンへの置換以外にはアミノ酸変異は見られません。てことは、ZMappの効き目を損ないそうな変異は今のところ見つかっていない。一安心ですね。

取り急ぎ、1時間くらいで論文読んで、1時間くらいで書いてみました。深い話はまたの機会があればってことで。

*1:エボラじゃないですー

エボラ出血熱を正しく怖がるために——(1)へのコメントにお返事するなど

http://www.flickr.com/photos/69583224@N05/13717624625
photo by EU Humanitarian Aid and Civil Protection

前回のエボラの記事では、場末の論文紹介(しかも、ウイルス限定というマニアック感半端ない)ブログにたくさんの反響を頂き、動揺を隠しきれないというか肘に違和感を覚えて降板しそうな勢いです。でも、書きたいことがあって、読んでくれる人がいるのは幸せなことですね。

反響が大きかった分、大事なポイントを指摘された方もたくさんいました。idコールなどはしませんが、ブクマコメントやTwitterでのコメントなどへのお返事です。論文紹介はお休み。イラストもお休み。

なぜ医療従事者が感染するのか?実は空気感染してるのでは?

これはとても大事なポイントですね。結論から言うと、現地ではエボラウイルスの感染を防ぐのに適切な水準を保つのがとても難しいから、というのが最大の理由で、空気感染は今のところ問題になっていないです。NPRで同じテーマが取り上げられていましたので参考までに。

This Suit Keeps Ebola Out — So How Can A Health Worker Catch It? : Goats and Soda : NPR

エボラウイルスの研究を行うBSL4施設では「病原体を持ち出さない」「研究者の命を守る」ために、万全の体制でとことんまで消毒を行います*1。この、過剰に消毒してリスクを減らすことを「オーバーキル」とも呼びます。また、ヒューマンエラーによる万が一を防ぐために、あらゆる作業は標準化され、全員がトレーニング受けて遵守することが求められます。標準化されているため、体調や精神状態によっては交代してもらうことも可能です。事故を防ぐために高額な機器や消耗品を使うことも許されます。ゴム手袋が破れても、加圧スーツがウイルスの侵入を防いでくれます。

一方でアウトブレイクの臨床現場ではどうでしょうか?物資や設備が限られているため、また人間が相手のため、「オーバーキル」とはとても言えない状況です。作業はある程度標準化できますが、手順の見直しやトレーニングに十分時間をかけることはできません*2。体調が悪くなってしまったら、自分がエボラに感染したかと疑わなくてはいけない状況です。特に、エボラ出血熱で血管がぼろぼろになってしまった患者から採血したり、点滴のルート確保をしたりするのは難しいですし、意識がもうろうとして暴れる人もいます。それを、防護衣を着て、ゴーグル越しに見ながら、2重3重のゴム手袋をはめて行わなくてはなりません。ゴム手袋が破れたら、身を守ってくれるものはありません。

確かに、感染症に精通した医師や看護師が感染してしまうというのは、にわかに信じられませんが、こうして比較してみると、いかに現場が危険であるか分かると思います。最前線で戦う医療従事者に感染者が出ているのは、それだけ患者と直接接触し、ウイルスに暴露される機会が多いからということなのです。もし、空気感染で拡がっているとすれば、医療従事者以外のサポートスタッフにも感染が拡がっていてもおかしくないですから、もっとひどい状況になっているのではないでしょうか。

そういうわけで、じゃんじゃん寄付しましょう。MSF日本への寄付はこちらから!
今回の寄付受付入力画面 | 国境なき医師団日本

空気感染と飛沫感染

やらかしちゃった感があふれてますけど、前回の記事ではこの2つをあまり区別していません*3。実験的に空気感染(=飛沫核感染)なのか飛沫感染なのかを区別するのは結構大変なんですよね。人工的に作った飛沫核はあくまでもモデルですし、飛沫感染が成立する状況では飛沫核感染も成立するわけで、いずれにせよ、空気中を漂ったり飛んだりしているエボラウイルスを吸い込んで感染という経路は、エボラの拡散にあまり寄与していないよってことが伝わればいいかなっと(ごまかした)(お茶を濁した)(胡麻菓子おいしいよね)。

満員電車問題

「この社畜め!」と罵りたいのはやまやまですが、ちょっとだけまじめに考えてみましょうか。シエラレオネ、ギニア、リベリアの3カ国がアウトブレイクの中心で、それぞれ国際空港があります。しかし、成田、関空はもちろん、香港、仁川、シンガポール、ドバイといったおなじみのハブ空港には直行便がないようですね。ロンドン、パリ、アムステルダムブリュッセルあたりが気になるところでしょうか。例えばシエラレオネ国内の移動で1-2日、ロンドンに着くまでさらに半日、成田まで直行便で半日ちょい、経由便で1日、が最短ルートかな。丸2-5日くらいかかりそうですね。エボラの潜伏期間は2日から3週間程度のため、どこかで感染した人が気づかずに日本まで来てしまう可能性はなきにしもあらず。到着する頃には風邪様の軽い症状が出始めているでしょうから、検疫で申告するか、感染症外来を受診しましょう。

サウジアラビアの死亡者はシエラレオネからの輸入例(まだ確定していない)だとすると、同様のケースはどこで起きてもおかしくない、ということになります。日本と上にあげた3カ国のビジネスってどんな感じか知りませんが、直接入ってくるケースはかなり限定されますし、検疫でも把握/追跡しやすいのでここは楽観視してもいいかも。それよりもヨーロッパのハブ空港を経由して拡がってしまった場合が要注意ですかね。

これだけ注目が集まり、不安が高まっているので、日本に感染者が入ってくることはたぶんないでしょう。もし入ってきたら?感染者が満員電車に乗っていたら?最初のケースに巻き込まれないことを祈る他ありません。最初のケースがニュースになったら満員電車は日本から消えるでしょうから、その時は保健所などの指示に従いましょうね。

*1:廃棄物や排水は全部オートクレーブで滅菌しますが、人間は滅菌すると死んじゃうので、消毒です。

*2:これができるのは体力のある一部のNGO(=MSF)と公的機関から派遣されているグループくらい

*3:インフルが空気感染とか書いちゃってるし・・・修正しました

エボラ出血熱を正しく怖がるために——(1)空気感染するのかしないのか?

西アフリカ、特にシエラレオネで起きているエボラ出血熱アウトブレイクがなかなか終息せず、世の中がざわざわしていますね。感染が拡大してしまった大きな要因として、都市での発生と言う地理的要因の他、現地の人たちの教育水準や文化的背景、そして政治体制の問題があるのは疑いようもなく、アウトブレイクの終息にはまだまだ時間がかかりそうです。

国際的な注目が集るきっかけとなった一つの出来事に、アメリカ人の感染者が本国にチャーター機で輸送され、病院に収容されたというものがありました。治療に使われているという未承認薬も含めた一連のアメリカの動きは政治力学の発露であることは否めず、諸手を挙げて「アメリカすげぇ」とは言えない状況ですが、どさくさ紛れのごり押しで研究開発が進むのも事実であります。清濁併呑して突き進むアメリカのパワーを思い知らされます。

さて、当ブログは論文紹介ブログですので、アウトブレイクのニュースを追いかけるのは他の人に任せるとして、論文を紹介しながらエボラにまつわる疑問を少しでも解消できるよう、書き連ねてみたいと思います。長くなりそうなので先に結論だけ置いておきますね。

  • エボラウイルスだってウイルスだ。ウイルスの限界は超えられない。
  • あなたに今できること。勉強、寄付、ついでに他の感染症も理解しよう。

彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し。(孫子

ウイルスのことだけじゃなく、人間のことも知って、正しく怖がりましょう。

エボラが空気感染するって本当?

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「エボラは空気感染しねーよ」「いや、するらしいよ」「突然変異とかあるんじゃないの?」などとざわわっとなるこの大きな疑問ですが、答えは「たぶん、する。でも大したことない」です。

まず、少し前に話題になった豚から猿への空気感染の論文を見てみましょう。ドキドキのScientific Reportsより。

Transmission of Ebola virus from pigs to non-human primates : Scientific Reports : Nature Publishing Group

*1エボラウイルスに感染させました。同じ部屋に猿を4頭飼っているといつの間にか全頭感染しちゃいました。場所は離れてるし、気をつけて掃除したので、豚から猿へは空気感染でしょね。という論文です。何でこの論文選んだかって言うと、サプリのFig 1(リンク先PDF注意)に実験室の写真があるからなんです。これくらいの距離なら、24時間同じ部屋にいたら感染しちゃうことありますよってことを言いたいので、是非見て下さい。
じゃ、猿から猿へはどーなの?という疑問ですが、こちらも論文が出てまして、たとえばこれは、コントロールの猿に飛び火しちゃったテヘペロ☆という論文です。ちなみに豚→猿実験の研究所では、過去に同じケージを使って実験してるけど猿から猿へ飛び火したことはないなぁとのことでした。他には、エボラウイルスを無理やりエアロゾルにして吸引させている論文もいくつか出ています。これとかこれとか。耳鼻科でおなじみのネブライザーを使って、エボラウイルスを猿に吸わせると感染してエボラ出血熱で死にます。

疫学的にはどうなんでしょう?こんな論文が出ています。1995年のアウトブレイクの調査。

Ebola hemorrhagic fever, Kikwit, Democratic Rep... [J Infect Dis. 1999] - PubMed - NCBI

論文中では5人の患者について、エボラ患者を見舞いに病院には行ったものの、患者に直接触れなかった=空気感染の疑いがある、としています。しかし、これ以降に出ているどの論文でも、空気感染の疑い例は報告されていませんし、患者や患者の体液との接触が最も有力な感染源であるとの結果が出ています。

特に、2000-2001年のウガンダでのアウトブレイクを扱ったこの論文では、患者と同じ簡易病棟(頑丈なテントみたいなもの)で一晩を明かすこことと、2次感染することの間には弱い相関しかない、という結果が出ており、空気感染はエボラの感染にほとんど寄与していないだろうと結論しています。

エボラウイルスは環境中で脆弱で、石けんやアルコールでも急速に滅菌されると言われています。一方で、重症患者の血液1mlあたり10の6乗個ほどの粒子*2があり、これが数百程度体内に入ると(エアロゾル感染でも)感染が成立することが分かっています。

こういった実験的、疫学的な研究の積み重ねの結果、WHOやCDCは空気感染のリスクは極めて低いと見積もっており、患者や患者の体液との接触に注意を払うよう勧告しているのです。

では、突然変異を起こしたエボラウイルスが人から人へ激しく空気感染するようになる可能性はあるのでしょうか?ない、とは言いきれないのはもちろんですが、たぶん、ないです。それに、インフルエンザウイルス麻疹ウイルスや口蹄疫ウイルスのように空気感染で拡散するためには、感染者が動き回ることのできる時期(=潜伏期間〜症状が激しくなる前)にエアロゾルになりやすい鼻水や唾液中にウイルスが大量に放出されることがキモです。エボラウイルスは潜伏期間中はほとんど体外に出ませんし、一度症状が始まると咳やくしゃみどころではなくなってしまいます。そのため、空気感染で広がるエボラウイルスは、たぶん、そんなに怖くありません。エボラウイルスだってウイルスだ、ということです。

*1:何で豚?というと、話が長くなるので端折りますが、レストンウイルスというエボラの兄弟がフィリピン辺りにいまして、人を殺したことはないんですけど、豚から人へ感染するらしいという疫学調査の結果があるのです。それをエボラでも実験してみようぜ!という論文ですね。

*2:ちょっと語弊はありますが、めんどいのでそのままにしておきます。

ヒト化ネズミはデング出血熱の悪夢を見るか?

(ご、ごぶさたしております)(蚊の鳴くような声で)(デングだけに)

Inhibition of megakaryocyte development in the bone marrow underlies dengue virus-induced thrombocytopenia in humanized mice.
J Virol. 2013 Nov;87(21):11648-58. doi: 10.1128/JVI.01156-13. Epub 2013 Aug 21.
久しぶりの更新は安心と安定のJ Virolより。

顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Disease)の4番バッターことデング熱が今回の主役です。致死率は1%以下と、この手のウイルス感染症にしては低めではあるものの、蚊の生態の厄介さと地球規模の分布で、毎年数千万人単位で患者を量産する長距離打者です。原因となるのはフラビウイルス科デングウイルス。デングウイルスに感染すると、高熱と、関節や骨の痛みが一過性に起きます。これがデング熱です。たいていは治ります。

怖いのは、発熱が収まってきたかな?という頃に出血熱に発展してしまい、死に至るケースです。これをデング出血熱と言います。

さてさて、感染症の研究と切っても切れないのが実験動物を用いたモデルなわけですが、デング出血熱のモデル作りはあまりうまくいきませんでした。マウスはもちろん、他の動物もいろいろ試してみましたがモデルにはほど遠くて、サルを使うしかないんでないの?というとこまでたどり着いてしまい、お財布的にちょっと苦しい状況だったのです。ヒトのサンプルはこの手の熱帯病の常で、医療体制もままならない地域で入手するのは至難の業です。

そこで研究者たちが思い至ったのが、造血系の細胞をまるっとヒトのものに置き換えたヒト化マウスです。ウイルス性出血熱は、すごくざっくばらんに言えば、ウイルスが悪さして血が止まらなくなる病気です。マウスでデング出血熱が起きないのはネズミさんだからじゃね?→思った通りヒト化マウスは出血熱のような症状を示したのでした。というところまでが背景。ヒト化マウス作るとかサル買ってくるより大変なんじゃねーの?という野暮な突っ込みは禁止な?*1

というわけで、ヒト化マウスを作りました。ひと工夫して骨髄の造血系だけじゃなく、肝臓の細胞も一部ヒト化したマウスができました。これで、デング出血熱でどうして血が止まらなくなり出血熱になるのか、より正確に調べる事ができます。なぜなら、止血の際に最前線で固まる役目を担う血小板の産生には、骨髄にいる巨核球という細胞と、肝臓で作られるトロンボポエチンの両方が必須で、どちらが欠けてもヒトの止血機構を再現することはできないからです。
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また、デング出血熱になってしまった患者では血小板が顕著に減少することが知られています。血小板減少の謎を追うことで、出血熱になる仕組みを解き明かそうという試みですね。

このヒト化マウスにデング熱ウイルスを感染させると、ヒトの血小板だけがすごく少なくなります。巨核球も少なくなり、巨核球になる前の細胞たちも少なくなります。が、肝臓のトロンボポエチン産生はあまり変わりません。巨核球自体にはどうやらウイルスは感染していなさそうです*2が、骨髄からウイルスが見つかりますし、骨髄中のヒト細胞の割合がちょこちょこと変わっています。
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これらの結果から、筆者たちは巨核球への分化をサポートする骨髄中の環境がウイルス感染でダメージを受け、結果として血小板が減少するのではないか?という推測をしています。

デングウイルスによる血小板減少のメカニズムとしては、長年、抗体によるものではないかと考えられてきましたし、実験的にも確かめられています。一方で、今回のヒト化マウスモデルでは、抗体の応答がなくても血小板減少が骨髄レベルで起きることが分かりました。さてさて、本当のところはどうなんでしょう?どちらのメカニズムもあり得そうですし、ひょっとしたら、双方の微妙なバランスが成立した時にだけデング出血熱が起きるのかもしれません。まだまだ、研究しなければいけないことはたくさんありそうですね(研究費もっとちょうだい)。

*1:実際のところ、BSL3とか4の施設でサルを扱うのは最初からサル用にデザインされてないと辛いので、マウスで研究できるに超したことはないのです

*2:これは文章で触れられてるだけで結果が示されてないので、ちょっと疑問が残る

ウイルス家紋

現代家紋とやらが話題らしいですね。

見たことあるあのマークを家紋に 「#現代家紋」 - Togetterまとめ
化学家紋 : 有機化学美術館・分館

流れに乗っかるのもアレですけど、前々からウイルスを家紋みたくしたら面白いかなー?と思っていて、ちょこちょこ考えてたのを置いておきますね。

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これをもうちょっと発展させて、ウイルスの性質とか覚えるのに使えたらいいなーなんて。DNAウイルスがいないのはご愛嬌。

追記)マールブルグウイルスの説明が分泌蛋白質有になっているのは無しの間違いです。コピペコピペェ!

もやしもん最終回に寄せて

あけましておめでとうございます。今年もゆるゆるですがなにとぞ。

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記念すべき、もやしもん第1巻の発売のあった2005年5月、僕は某大学某学部の5年生だったでしょうか?(あいまい)。ちょうど研究室に通い始め、一通りウイルスの扱い方や分子生物学のテクニックを習得しかけた頃だったように思います。「大腸菌の気持ちが分かるようになった」とか言ってた記憶があります。思えば、僕の研究人生の傍らには必ずもやしもんがありました。沢木のように菌やウイルスが目で見えるようにはなりませんでしたが、ウイルスを『スゲー見る』お仕事に(ひとまず)就けて幸せな日々を送っています。石川先生に感謝と賛辞を。