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HIVに感染したヘルパーT細胞が激おこぺこぺこ丸になる仕組みが明らかに

ごぶさたさたでー!(まだ金曜日だけど)

今日の論文は、有名すぎて知らない人がいない、ウイルス界の花形ことヒト免疫不全ウイルス(HIV)がテーマでございます。

HIV-1 causes CD4 cell death through DNA-dependent protein kinase during viral integration : Nature : Nature Publishing Group

このHIV、免疫不全ウイルスというからには免疫が不全になるよーな悪さをするウイルスなんでございますが、その一番かんじんな部分であるところのCD4+T細胞(ヘルパーT細胞と呼ばれるやつです)をぶっころ死な仕組みがいまいち良く分かってませんでした。CD4+T細胞は免疫系の司令塔というか、影のドンというか、裏番というか、遠藤みたいな役割の細胞です*1。こいつが死ぬと、みんな何したらいいのか分からなくなって獲得免疫全体が働かなくなります。これが免疫不全です。

良く分かってないと言っても、まぁそりゃウイルスが感染して細胞が死ぬ訳ですから、アポトーシス(細胞の自殺)がどうとかp53(アポトーシスにもすごく関わってるタンパク質、あとでまた出てくる)がどうとか、そういうことは割と調べられていたみたいです。けど、HIVがほっほーいと細胞に感染して、ぐいっと細胞のDNAに入り込んで、ウイルスタンパク質やRNAが量産されて、じゃーのーっと細胞から出て行く一連の流れの中で、何がどう怒って起こってCD4+T細胞が死ぬのかというのはいまいちでした。

今回の論文の研究者たちは、ウイルスが増殖する一連の流れのうち、かなり早い段階で細胞がお亡くなりになる条件を満たしていることをまず見つけました。ウイルスがばかすか増殖しなくても、CD4+T細胞は死んでいくのです。さらに、ウイルスが自らのDNAを細胞のDNAにぐいっと入り込むステップそのものがアポトーシスを招いていることを、ぐいっと入り込めないウイルスを作って証明しました。んで、ぐいっと入り込むステップに反応して細胞のDNA修復システムが激おこぷんぷん丸になること、DNA-PKという修復システムを担うタンパク質がカム着火ファイヤーインフェルノゥでちょっとやばい感じになっちゃってることを見つけました。どれくらいやばいかと言うと、p53という『遺伝子の守護者』に「この細胞の遺伝子もうだめだわー」と伝えて細胞の自殺を行わせてしまうくらいやばいのです。

例によって例のごとく絵にするとこんな感じ。ちょっとごちゃっとしちゃいましたが。f:id:DYKDDDDK:20130608092453p:plain

この発見がすごいところは、仕組みを明らかにしたことだけではありません。DNA-PKがカム着火ファイヤーインフェルノゥになることをお薬で抑えてあげると、細胞が死ななくなることを示していることです。つまり、HIV感染によってヘルパーT細胞が死に、免疫不全症というとても危ない状態に陥るのを薬で防げるようになる可能性が出てきました。HIVの治療薬と組み合わせることで、我々人類はついに、この厄介な病気を克服することができるかもしれません。

それにしてもGary Nabelは企業に移ったのに派手な論文を量産するなぁ。つい先日のこれに引き続きまたNatureですか・・・

*1:サッカーとか良くわかりません