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あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

ナルコレプシーとインフルエンザウイルスをつなげる13のアミノ酸

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メリークリスマス!みんな、良い子にしてたかな?もちろんプレゼントは年末年始のお仕事だよっ!(吐血)

今回の論文はこちら。Sci Transl Medはここんとこ熱くなってきてる気がしますねー。ウイルスあんまし関係ない気もします。イラストがやっつけすぎる?まぁそうかたいこと言うなよ。
CD4+ T Cell Autoimmunity to Hypocretin/Orexin and Cross-Reactivity to a 2009 H1N1 Influenza A Epitope in Narcolepsy

ナルコレプシーという睡眠障害を示す脳神経疾患があります。複数の疫学的調査によって、この病気(のほとんど)が特定のHLA型(DQ0602*1中央アジア〜ヨーロッパに多い)が関係する自己免疫疾患であり、オレキシン/ハイポクレチン産生神経細胞の消滅が引き金となっていることが分かっていました。しかし、自己免疫疾患の主原因となるB細胞が作る抗体をいくら調べても、ナルコレプシーのメカニズムに明確な答えが出ませんでした。

一方で2009年に北米で始まった新型/豚由来H1N1インフルエンザウイルスのパンデミックの最中、Pandemrixというワクチンがナルコレプシーを誘発しているのではないかという疑惑が持ち上がりました。インフルエンザワクチンとナルコレプシーの関係については、CDCや厚生労働省も公式声明を出してますし、六号通り先生と青木先生のブログでも過去に取り上げられていますので、目にされた方も多いのではないでしょうか。
CDC - CDC Statement on Discontinued Use of Pandemrix Influenza Vaccine in Europe - Vaccine Safety
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013nne-att/2r98520000013nzv.pdf(PDF)
新型インフルエンザワクチンとナルコレプシーの発症について:六号通り診療所所長のブログ:So-netブログ
Pandemrixとナルコレプシー - 感染症診療の原則

この2つのナルコレプシーにまつわる謎をまとめてドン!と解明したのが今回の論文です。かっこいいですねー。

まず最初はハイポクレチンを部分的に合成して、DQ0602との親和性やDQ0602を持つAPCの抗原提示能を調べ、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞だけがAPC(DQ0602)とハイポクレチンペプチドで分化(IFN-γとTNF-αで見てるからTh1ですね)することを示しています。抗体をいくら調べても結論が出なかったのに、上流までちょっと戻ったらあっさり分かっちゃった。特にハイポクレチンの56〜68番目のアミノ酸配列と87〜99番目の13個のアミノ酸からなる配列がCD4+ T細胞への抗原提示に寄与しているみたい(Figure 3A)で、しかもこれ、ハイポクレチンがシグナルを伝えるのに重要な部位です。直接示されているわけではないですが、ナルコレプシー発症機序の超重要部分が実にさくっと解明されてしまったように見えました。

まとめ1
  • ハイポクレチンの機能部位がHLA-DQ0602に結合してCD4+ T細胞に抗原提示され、CD4+ T細胞はTh1に分化する ←New!
  • CD8+ T細胞が活性化し、ハイポクレチンを発現する細胞を排除? ←まだ分かってない
  • ハイポクレチン発現神経細胞がいなくなると睡眠障害の症状が出る ←知ってた


注目すべきは豊富なナルコレプシー患者由来のサンプルでしょう。普通の患者(と陰性対象)だけでなく、双子のうち1人がナルコレプシーでもう1人が発症していないケース(Figure 2B)や、Pandemrix接種後にナルコレプシー発症した患者とその兄弟(Figure 2C)というサンプルも集めています。この研究に携わっている人たちの本気度が伝わってきますね。

さてさて、お次はインフルエンザワクチン*2に対する反応をvivoとvitroの両方で見ています。インフルエンザワクチンを接種すると、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞はハイポクレチンに対しての反応性がさらに上がってしまうけど、ナルコレプシーでない人のCD4+ T細胞にハイポクレチンに対する反応を誘導することはできないことが示されてます(Figure 4&6)。インフルエンザウイルスH1N1(A/California/7/2009 (H1N1)、パンデミックの時に分離されたウイルス)のHAたんぱく質の275〜287番目のアミノ酸と、先ほど出てきたハイポクレチン56〜68と87〜99はとてもよく似ていることも分かりました(Figure 5)。他のH1インフルエンザウイルスたち(A/New York/490/2003 (H1N2)*3、A/Wisconsin/10/1998 (H1N1)*4、A/Puerto Rico/8/1934 (H1N1)*5、A/Brevig Mission/1/1918 (H1N1)*6)も似たような配列を持っていますが、DQ0602との結合力は豚由来のA/Wisconsin/10/1998とパンデミック株のA/California/7/2009に比べて低く、ナルコレプシーとの関連はあるかもしれないけど、たぶんなさそうです。

まとめ2
  • インフルエンザウイルスのHAたんぱく質は、ハイポクレチン上のナルコレプシーに関わる領域ととても似た配列を持っている ←New!
  • 2009年パンデミックのインフルエンザウイルスと豚インフルエンザウイルスは特にハイポクレチンとの反応を誘導しやすいアミノ酸配列を持っている ←New!
  • パンデミックインフルエンザワクチン単体で、ナルコレプシー患者のCD4+ T細胞のハイポクレチンに対する反応性を上げてしまうが、アジュバントのないワクチンではハイポクレチンに対する反応性を誘導できない ←New!


つまり、パンデミックインフルエンザ(ワクチン)によるナルコレプシーというのは、

  • もともとポテンシャルのある人(HLA-DQ0602を持つ人)
  • アジュバント、あるいは他の要因により、CD4+ T細胞の分化がTh1側に強く誘導された状態でのワクチン接種/ウイルス感染

によって引き起こされる不幸なできごとであることがおぼろげながら見えてきました。また、今まで疫学的相関関係しか分かっていなかった、ナルコレプシーと自己免疫疾患との間にメカニズムを見出せたインパクトはとても大きいのではないかと思います。早期診断だけでなく、予防に治療に、あらゆる応用が期待されますね。

*1:DQA1*01:02/DQB1*06:02

*2:アジュバントなし、パンデミックインフルエンザウイルスを含むものか、パンデミックインフルエンザウイルスワクチン単体

*3:季節性インフルエンザウイルスの一つ

*4:豚インフルエンザウイルスがたまたま人に感染したケースから分離。

*5:いわゆるPR8株。

*6:スペイン風邪のウイルス株。凍結保存されていた患者の肺サンプルからシークエンスされた。