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あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

エボラ出血熱を正しく怖がるために——(1)空気感染するのかしないのか?

西アフリカ、特にシエラレオネで起きているエボラ出血熱アウトブレイクがなかなか終息せず、世の中がざわざわしていますね。感染が拡大してしまった大きな要因として、都市での発生と言う地理的要因の他、現地の人たちの教育水準や文化的背景、そして政治体制の問題があるのは疑いようもなく、アウトブレイクの終息にはまだまだ時間がかかりそうです。

国際的な注目が集るきっかけとなった一つの出来事に、アメリカ人の感染者が本国にチャーター機で輸送され、病院に収容されたというものがありました。治療に使われているという未承認薬も含めた一連のアメリカの動きは政治力学の発露であることは否めず、諸手を挙げて「アメリカすげぇ」とは言えない状況ですが、どさくさ紛れのごり押しで研究開発が進むのも事実であります。清濁併呑して突き進むアメリカのパワーを思い知らされます。

さて、当ブログは論文紹介ブログですので、アウトブレイクのニュースを追いかけるのは他の人に任せるとして、論文を紹介しながらエボラにまつわる疑問を少しでも解消できるよう、書き連ねてみたいと思います。長くなりそうなので先に結論だけ置いておきますね。

  • エボラウイルスだってウイルスだ。ウイルスの限界は超えられない。
  • あなたに今できること。勉強、寄付、ついでに他の感染症も理解しよう。

彼を知り己を知れば百戦殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆し。(孫子

ウイルスのことだけじゃなく、人間のことも知って、正しく怖がりましょう。

エボラが空気感染するって本当?

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「エボラは空気感染しねーよ」「いや、するらしいよ」「突然変異とかあるんじゃないの?」などとざわわっとなるこの大きな疑問ですが、答えは「たぶん、する。でも大したことない」です。

まず、少し前に話題になった豚から猿への空気感染の論文を見てみましょう。ドキドキのScientific Reportsより。

Transmission of Ebola virus from pigs to non-human primates : Scientific Reports : Nature Publishing Group

*1エボラウイルスに感染させました。同じ部屋に猿を4頭飼っているといつの間にか全頭感染しちゃいました。場所は離れてるし、気をつけて掃除したので、豚から猿へは空気感染でしょね。という論文です。何でこの論文選んだかって言うと、サプリのFig 1(リンク先PDF注意)に実験室の写真があるからなんです。これくらいの距離なら、24時間同じ部屋にいたら感染しちゃうことありますよってことを言いたいので、是非見て下さい。
じゃ、猿から猿へはどーなの?という疑問ですが、こちらも論文が出てまして、たとえばこれは、コントロールの猿に飛び火しちゃったテヘペロ☆という論文です。ちなみに豚→猿実験の研究所では、過去に同じケージを使って実験してるけど猿から猿へ飛び火したことはないなぁとのことでした。他には、エボラウイルスを無理やりエアロゾルにして吸引させている論文もいくつか出ています。これとかこれとか。耳鼻科でおなじみのネブライザーを使って、エボラウイルスを猿に吸わせると感染してエボラ出血熱で死にます。

疫学的にはどうなんでしょう?こんな論文が出ています。1995年のアウトブレイクの調査。

Ebola hemorrhagic fever, Kikwit, Democratic Rep... [J Infect Dis. 1999] - PubMed - NCBI

論文中では5人の患者について、エボラ患者を見舞いに病院には行ったものの、患者に直接触れなかった=空気感染の疑いがある、としています。しかし、これ以降に出ているどの論文でも、空気感染の疑い例は報告されていませんし、患者や患者の体液との接触が最も有力な感染源であるとの結果が出ています。

特に、2000-2001年のウガンダでのアウトブレイクを扱ったこの論文では、患者と同じ簡易病棟(頑丈なテントみたいなもの)で一晩を明かすこことと、2次感染することの間には弱い相関しかない、という結果が出ており、空気感染はエボラの感染にほとんど寄与していないだろうと結論しています。

エボラウイルスは環境中で脆弱で、石けんやアルコールでも急速に滅菌されると言われています。一方で、重症患者の血液1mlあたり10の6乗個ほどの粒子*2があり、これが数百程度体内に入ると(エアロゾル感染でも)感染が成立することが分かっています。

こういった実験的、疫学的な研究の積み重ねの結果、WHOやCDCは空気感染のリスクは極めて低いと見積もっており、患者や患者の体液との接触に注意を払うよう勧告しているのです。

では、突然変異を起こしたエボラウイルスが人から人へ激しく空気感染するようになる可能性はあるのでしょうか?ない、とは言いきれないのはもちろんですが、たぶん、ないです。それに、インフルエンザウイルス麻疹ウイルスや口蹄疫ウイルスのように空気感染で拡散するためには、感染者が動き回ることのできる時期(=潜伏期間〜症状が激しくなる前)にエアロゾルになりやすい鼻水や唾液中にウイルスが大量に放出されることがキモです。エボラウイルスは潜伏期間中はほとんど体外に出ませんし、一度症状が始まると咳やくしゃみどころではなくなってしまいます。そのため、空気感染で広がるエボラウイルスは、たぶん、そんなに怖くありません。エボラウイルスだってウイルスだ、ということです。

*1:何で豚?というと、話が長くなるので端折りますが、レストンウイルスというエボラの兄弟がフィリピン辺りにいまして、人を殺したことはないんですけど、豚から人へ感染するらしいという疫学調査の結果があるのです。それをエボラでも実験してみようぜ!という論文ですね。

*2:ちょっと語弊はありますが、めんどいのでそのままにしておきます。