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あなたのまわりの小さなともだちについて

あるいは、この如何ともし難い小さき有機体が何を思ふか

エボラウイルス病(エボラ出血熱)を正しく怖がるために(3)——発症してない人からは感染しないって本当?

ついに日本でも疑い例がとか、BSL4施設稼働するかもとか、対岸の火事がどんどん近づいているように感じられますね。当ブログはゆるゆるウイルス的論文紹介ブログ*1ではありますが、こういう時に情報発信してこそだろー!ということで、今回も引き続きエボラってみましょう。

今回は、エボラの基礎知識として良く言われる(そして、不安になっている人が多いだろうと思われる)『潜伏期間はウイルスを排出しない』という言説について、論文を紹介してみようと思います。

その前に一つだけ。エボラの出血は他の出血熱ウイルスに比べても、実はそんなに激しくありません。粘膜からの出血や皮下出血がほとんどで、いきなり鼻血どばーっ!吐血げぼーっ!とか、目から血涙だらーっ!みたいなことは起きませんので、そういうのはフィクションの中でお楽しみください。

まずはこちらの論文。筆頭著者は日本人。
Host response dynamics following lethal infection of rhesus macaque... - PubMed - NCBI


サルにエボラを実験感染させて、いろーんなパラメーターをこれでもかって具合に解析した論文です。サルでのエボラ熱症状は、発熱と粘膜からの出血、皮下出血で、これらが始まるのが感染2-3日後、ウイルスが血中に検出できるのもほぼ同じタイミングです。そこだけ確認したい人はFig. 1Aと1E(Viremia)だけ見たらいいんじゃないでしょうか。サイトカインや凝固因子などの知識がある人は他の図も見ると面白いと思います。ウイルスが増殖するタイミングで上がったり下がったり、末期にはいわゆるサイトカインストームも起きてます。

次の論文はこちら。ZMAbでサルを治療した論文ですが、今回見るのは治療に失敗した2頭(B2とB3)とコントロールの1頭(C1)の数字です。
Successful Treatment of Ebola Virus–Infected Cynomolgus Macaques with Monoclonal Antibodies

Table 1を見てみましょう。これは、経時的に口腔、鼻腔、直腸それぞれのぬぐい液をRT-PCRにかけてウイルス排出の有無を見た実験結果です。NDは調べてない、『ー』は検出限界以下、検出限界は1 PFU/mL。これは、『ー』であればウイルスはいないと言ってもいいくらいの数字です。Fig. 2と見比べながら読むと、エボラ熱の症状が進行し安楽殺せざるを得なかったB2、B3、C1の3頭とも、安楽殺直前(=外見からして調子がすごく悪そうな状態)にならないとぬぐい液からウイルスが検出できないことが分かります。

ちなみに、治療できたサルのぬぐい液からはウイルスがまったく検出できてません。すてきですね。

最後の論文はこちら。おまけ的に回復期のお話。
Assessment of the risk of Ebola virus transmission from bodily flui... - PubMed - NCBI

治癒した後、どの体液にどれくらいの期間ウイルスが排出されるか、を調べた論文。母乳や精液により長期間排出される、という話はこの論文が出典でしょうか。体液の種類にも依りますが、およそ1週間程度、長くて1ヶ月以上ウイルスが排出されるということで、治癒した患者が解放されるまでにはそれくらいの時間を見積もらないといけないのです。

まとめると、普通の人が触れる危険のある『体液』であるところの唾液や排泄物からは、症状が出るまでウイルスは検出できません。症状が出始めると、血中には大量のウイルスが放出されているので、血が混じった体液には特に気をつけましょう、というところでしょうか。回復した患者さんはしばらくウイルス製造機になっちゃうので、申し訳ないですが、しっかり検査で確定するまでは隔離です。

だから安心だ、というつもりは毛頭ありません。伝えたいのは、こういった実験的な知見に加え、過去のアウトブレイク現場での経験の蓄積から、『潜伏期の患者との(通常の範囲での)接触は問題ない』という話になり、『現地から帰ってきた医療関係者の隔離はせず、1日2回の検温を21日』という話にも繋がっていく、ということです。満員電車の話にはちょっと食傷気味なんで、そこんとこよろしくぅ!

*1:ゆるい表現が気に入らなかったらごめんね☆